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一億三千万人のための小説教室 高橋源一郎

 『一億三千万人のための小説教室』 高橋源一郎、岩波新書

 私はこの手の本を読むと、漱石の夢十夜第六夜を思い出す。

 私は割とこうした本が好きで、書店で見かけるたびに結構な確度で興味を示す。それは私が一応物書きを自称している人間で、自称である以上そのことは疑いなくて、しかし小説の書き方を学びたいからという事情ではおそらく無い。

 小説観だとか、言葉にしてしまえばこれも貧弱な概念だが、良文というものをどういう風に捉えられるのか、ということに関心がある。書籍として出ているものは数えるほどしか読んだことがないが、ネットでもそういう意図の文章は公開されているし、私も読んだことがあった。

 小説について書かれた文章はおよそ二つに分けられる。一つは技術論的なものであり、もう一つはより大きな「小説」という概念について語るものだ。この本は後者である。

 後者型の本の著者は「小説は誰でも書ける」ということに対して割と消極的である。

 高橋もやさしく書いているように見えて、その実「世間で出回っている小説のほとんどは、小説以前、『小説のようなもの』」だと始めに釘を刺している。ここに筒井が「小説とは最も自由な文芸の形式である」ことを強調しながらも、芸道的な「小説作法」を批判したのと近い小説観が見える。書かれているのは単なる技術の問題ではない。

 だからこれを文字通りレッスンと受けとると、あまりに感覚的な言葉に惑わされるだけだろう。全体的に言葉遊びが多いことも漠然とした感じを与えやすい。そもそもが小説の書き方なんて自分で見つけるしかないと言い切っている。

 高橋は小説とは「つかまえる」ものだ、という語彙を使った。苦しい選出だったんじゃないかと思わぬでもない。小説の具体的な定義は避けた。そも、それが言葉で判然と定義できるものでないと考えているからこそ、このような本を書くのだ。

 「つかまえる」というのは、それが生み出すより先にあるということだ。ようやく漱石を引用しようか。

「よくああ無造作に鑿(のみ)を使って、思うような眉や鼻ができるものだな」自分はあんまり感心したから独り言のように言った。するとさっきの若い男が、
「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あのとおりの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだから決して間違うはずはない」と言った。

 自分はこの時はじめて彫刻とはそんなものかと思いだした。はたしてそうなら誰にでもできることだと思いだした。それで自分も急に仁王が彫ってみたくなったから見物をやめてさっそく家へ帰った。

(略) 自分は積んである薪を片っ端から彫ってみたが、どれもこれも仁王を隠しているのはなかった。ついに明治の木にはとうてい仁王は埋まっていないものだと悟った。それで運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った。

――『夢十夜』夏目漱石

 何とも美しいじゃあないですか。これが小説なんだ、と私は理解している(つもりになっている)。高橋源一郎の「仁王」とはなんなのか、『一億三千万人のための小説教室』にはそれが書かれている。

関連タグ: 読書

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コメント

こんちは

こんちは、お久しぶりです。

小説についてですが、小説をあまり読まない方は、あのまわりくどさがとっつきにくいんじゃないかと思うんですよ。結論をさっさと言ってくれ、というように。
でも小説という形式はそのまわりくどさ、つまりバシッと結論を叩きつけることのできない領域を、ぐるぐると色々な視点を交えつつ記述する、その途上で高橋の言う「つかまえる」ということがでてくるというような形式だと思うのです。漱石の引用部分もそんなことなのではないか、と。
あと漱石のその部分は他のジャンルについても援用できる卓見だとも思います。

ではまた遊びにきますね。

>>堅物書生さん

おおむね同意です。
以前小林秀雄の感想あたりでも書いたんですが、言葉というデジタルなツールを用いた時点で失われてしまう「なにか」を、なお言葉でその曖昧な形をなぞるように象る試みが小説や詩だったり評論だったりする、というのが私の持論です。
それは多分彫刻始めファインアートでも音楽でも同じなのかなと。ただ今がそういった背後の「大きな物語」が喜ばれる時代かどうかは別の話ですが。

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